コロナ禍で急速に進んだテレワーク勤務の労務管理について
仕事といえば会社で行うものといった固定概念があり、製造業等の業種によりテレワークは無理といった思い込みがテレワーク普及の障害となりこれまで進んでこなかった現状があります。しかし、新型コロナウィルス感染予防のため人込みを避ける必要から急速に在宅勤務での勤務が増えてきました。テレワーク勤務において労務管理を行う上で気を付けなければいけない点について述べたいと思います。
テレワーク導入状況
新型コロナウィルス感染症の拡大を防ぐため職場への出勤者を7割減らすとの政府の要請を受けてテレワークの普及が進んでいます。
テレワーク導入状況
総務省 「令和元年通信利用動向調査ポイント」より
ウィズコロナ・ポストコロナの「新たな日常」、「新しい生活様式」に対応した働き方であると同時に、働く時間や場所を柔軟に活用することのできる働き方として、更なる導入・定着を図ることが重要とされています。
テレワーク導入の推進
テレワークの推進は労使双方にとってメリットがでるよう使用者は労働者が安心して働くことができる環境を整えることが大切です。
導入のメリット
- 労働者にとって
働く時間や場所を柔軟に活用でき、通勤時間の短縮やこれに伴う心身の負担の軽減、業務効率化につながることで、時間外労働の削減および育児や介護と仕事の両立等、労働者にとってワークライフバランスの向上を図ることが可能です。 - 使用者にとって
業務効率化による生産性の向上にも資するうえ、育児や介護等を理由とした労働者の離職の防止や遠隔地の優秀な人材の確保、オフィスコストの削減が可能となります。
種類と特徴
- 在宅勤務 (自宅での就労)
通勤を要しないことから通勤時間を活用した柔軟な働き方が可能、育児と仕事の両立など仕事と家庭生活の両立が可能 - サテライトオフィス勤務 (シェアオフィス、コワーキングスペースなどでの就労)
在宅勤務やモバイル勤務と比較し作業環境の整った場所での就労、自宅近くや通勤途中の場所等に設けることで通勤時間の短縮が可能 - モバイル勤務 (カフェや移動中の車内などでの就労)
移動時間の利用など労働者が自由に働く場所を選択できることで業務の効率化を図る事が可能
総務省 「令和元年通信利用動向調査ポイント」より
対象業務選定の留意点
テレワークを行う業務を選定する際に既存業務の在り方を前提にテレワークの対象業務を選定するのではなく、仕事の見直しを実施し業務遂行の方法や管理職の意識を変える事が有用な場合があります。安易にテレワークの向き不向きを結論付けないようにすることが大切です。
対象者選定の留意点
労働者が希望する場合、使用者が指示する場合がありますがいずれにしても労働者の納得を得たうえで対応をする必要があります。対象者を選定するに当たっては正社員、アルバイト・パート社員等、雇用形態の違いのみを理由としてテレワーク対象者から除外することのないよう留意する必要があります。入社直後及び異動直後の社員は、業務について上司や同僚等からの指導、助言が必要な為コミュニケーションが円滑に進むよう配慮しなければなりません。
テレワーク導入への取組
テレワークを導入するには導入目的、対象業務、対象労働者、実施場所、申請等の手続、費用負担、労働時間管理の方法や中抜け時間の取扱い等について、あらかじめ労使で十分に話し合い、ルールを定めておくことが重要です。
業務の見直し
これまで当たり前のように行われてきた押印や署名、資料の紙への印刷等テレワーク導入の障壁となるケースがあります。押印や署名の廃止、書類のペーパーレス化、決裁の電子化等が有効になります。またコミュニケーションを円滑に行う為オンライン会議やビジネスチャットの導入等のソフトウェアの導入も検討の必要があります。
人事評価
テレワークは非対面の働き方であるため、業務遂行状況や労働者の能力を把握しづらい側面をカバーできる工夫を行い適切に人事評価を行うことが重要になります。企業が労働者に対してどのような働きを求め、どう処遇に反映するかといった観点から労働者を適切評価する仕組みを構築することが基本になります。
例えば
- 部下に求める内容や水準等をあらかじめ具体的に示しておくとともに、評価対象期間中には、必要に応じてその達成状況について労使共通の認識を持つための機会を柔軟に設ける
- 行動面や勤務意欲、態度等の情意面を評価する企業は、評価対象となる具体的な行動等の内容や評価の方法をあらかじめ見える化する
- 人事評価の評価者に対しても、非対面の働き方において適正な評価を実施できるよう、評価者に対する訓練等の機会を設ける
費用負担
企業ごとに費用負担の取扱いは様々でり、労働者または使用者のどちらがどのように負担するか、使用者が負担する場合における限度額、請求方法等についてあらかじめ労使で話し合いルールを定める必要があります。
労働者個人が契約した電話回線等を用いて業務を行わせる場合、通話料、インターネット利用料などの通信費が増加する場合や、労働者の自宅の電気料金等が増加する場合、実際の費用のうち業務に要した実費の金額を在宅勤務時間等を踏まえて合理的・客観的に計算し、支給することも考えられます。
労働時間の管理
テレワークの場合における労働時間の管理については、テレワークが本来のオフィス以外の場所で行われるため使用者による現認ができない等の問題があります。労働時間の把握については、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を踏まえ原則的な方法として次の方法によることが考えられます。
客観的な記録による把握
- 情報通信機器の使用時間の記録
- サテライトオフィスへの入退場記録
労働者の自己申告による把握
自己申告による把握を行う場合、使用者は次のことについて措置を講ずる必要かあります。
- 労働者に対して労働時間の実態を適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うことや、実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用等について十分な説明を行うこと
- 労働者からの自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、パソコンの使用状況など客観的な事実と乖離がないか確認し、実際に乖離があれば所要の労働時間の補正をすること
- 自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設けるなど、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと
労働時間の柔軟な労働時間制度の活用
労働基準法には様々な労働時間制度が定められており、自社にあった制度を活用しテレワークを行う事が可能です。
- 通常の労働時間制度及び変形労働時間制
始業及び終業の時刻や所定労働時間をあらかじめ定める必要がありますが、就業規則に定めることにより始業及び終業の時刻についてテレワークを行う労働者ごとに自由に変更を認めることも可能 - フレックスタイム制
労働者が始業及び終業の時刻を決定することができる制度であり、テレワークになじみやすい制度です。労働者の生活サイクルに合わせて、始業及び終業の時刻を柔軟に調整することや、オフィス勤務の日は労働時間を長く、一方で在宅勤務の日は労働時間を短くして家庭生活に充てる時間を増やすといった運用が可能です。また労働者が業務から離れる中抜け時間についても労働者自らの判断により、その時間分その日の終業時刻を遅くしたり清算期間の範囲内で他の労働日において労働時間を調整したりすることが可能となります。 - 事業場外みなし労働時間制
事業場外みなし労働時間制は、労働者が事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定することが困難なときに適用される制度であり、使用者の具体的な指揮監督が及ばない事業場外で業務に従事することとなる場合に活用できる制度です。テレワークにおいて、「情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと」、「 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと」のいずれも満たす場合には制度を適用することができます。
就業規則の整備
テレワークにおいて就業規則に以下について規定し、ルールを明確化することが必要です。
- 費用負担の取扱いに関する定め
- 社内教育や研修制度に関する定め
- 「ワーケーション」など、労働者の都合に合わせて柔軟に働く場所を選択することができる場合には、使用者の許可基準を示した上で、「使用者が許可する場所」においてテレワークが可能である旨を定め
- 労働者が始業及び終業の時刻を変更することができるようにすることの定め
- 時間外等の労働に関して、一定の時間帯や時間数の設定を行う場合があること、時間外等の労働を行う場合の手続等
安全衛生の確保
労働安全衛生法等の関係法令等において、安全衛生管理体制を確立し職場における労働者の安全と健康を確保するために必要となる具体的な措置を講ずることを事業者に求めており、自宅等においてテレワークを実施する場合においても事業者は、労働者の安全と健康の確保のため次の措置を講ずる必要があります。
- 健康相談を行うことが出来る体制の整備
- 労働者を雇い入れたとき又は作業内容を変更したときの安全又は衛生のための教育
- 必要な健康診断とその結果等を受けた措置
- 過重労働による健康障害を防止するための長時間労働者に対する医師による面接指導とその結果等を受けた措置及び面接指導の適切な実施のための労働時間の状況の把握、面接指導の適切な実施のための時間外・休日労働時間の算定と産業医への情報提供
- ストレスチェックとその結果等を受けた措置
- 労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るために必要な措置
おわりに
使用者が適切に労務管理を行い労働者が安心して働く事ができる環境をつくることでテレワークを行うメリットを享受する事ができます。でなければ労働者にとって不透明な人事評価や上司、同僚とのコミュニケーションの不足による仕事への影響等が企業の業績低下を招く可能性もありデメリットでしかありません。コロナの影響で急速に進んだテレワークですが、上手く活用する事で今後の働き方のスタンダードになるかもしれません。
参考
厚生労働省 テレワーク総合ポータルサイト
総務省 テレワークの推進