退職金制度見直しの留意点
退職金支払いは義務ではない
社員が退職する際に退職金を支払うかどうかについては法律上の義務はありません。
退職金を支給することが慣例化しているような場合には、仮に退職金制度が無くても会社に退職金支払の義務が生じます。契約内容に退職金支給の有無を記載しトラブルの無いようにする事が必要です。
また一度制度を作ると労働条件の一つとなりますので退職金制度を廃止することや、退職金を支払わないということは契約違反になります。
退職金制度の目的
- 功労報奨
- 賃金の後払い
- 老後の生活保障
これらの目的のいずれをとるかによって、退職金制度の運用が変わってきます。功労報奨として支払うのであれば在職中の貢献度を反映させた運用になり貢献度により退職金の金額も労働者毎に変わってきます。反対に貢献度を反映させないのであれば勤続年数によって一律の金額を支給するという事になります。退職金制度を見直す際は退職金を支払う目的を明確にしましょう。
退職金制度のメリット・デメリット
退職金制度があることによるメリットとして「退職所得控除」があります。退職金を支払うときにも、所得税を源泉徴収しなければなりませんが、「退職所得の受給に関する申告書」を提出することによって、長年勤めた功労に報いる意味で税負担を軽くするしくみがとられていることです。
国税庁HPより
デメリットとしては「退職給付債務」という形で会社の経営状態の判断材料になるため債務が多いと金融機関の評価が低くなる可能性があります。
しかし、退職金制度がないことにより「人材採用が不利になる」「長年勤めることによる熟練した従業員の流出」等会社経営にとってデメリットは大きく安易に退職金制度はいらないと判断するのは危険です。
※退職給付債務:従業員等に対する退職給付の支払い義務を現在価値で評価したもの
退職金制度の見直し
では、会社の負担を軽減しつつ社員のモチベーションを維持する為に退職金制度をどのように見直せばよいでしょうか?
多くの会社で採用されている「基本給連動型」の退職金制度では次のような計算式で退職金を算出しています。
退職時の基本給 × 勤続年数別支給係数 × 退職事由別係数
勤続年数が長くなるにしたがって、退職金の支給額が増加していきます。昇給額が退職金の額に反映されることもあり支給水準のコントロールが難しい面があります。さらに将来退職金の額がどれくらいになるのか把握することが困難で退職金制度が会社経営に大きな負担となっています。そのため退職金制度を基本給と連動せない事が重要です。
- 一般的に、基本給と連動させない退職金制度には次の4つの制度があります。
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- 定額方式 ⇒ 「勤続10年で100万円」というように、勤続年数別に退職金額を定める方法。小規模の会社には最適な退職金制度です。会社への貢献度が反映されないといったデメリットがあります。
- 別テーブル方式 ⇒ 勤続年数別のテーブルに資格等級(役割)別の支給率を掛け合わせることにより、年数要素に貢献要素を加味することができます。退職時の等級(役職)のみが退職金算定の基準になる為、在職時の貢献度を反映することができないというデメリットがあります。
- ポイント制度 ⇒ 会社への貢献度を毎年測定し、退職金額に反映させる仕組みです。退職までの貢献度を全て反映させることができる。ポイント単価の設定で退職金支給水準をコントロールすることができる等のメリットがあります。過去の人事履歴を全て把握する必要があり管理が煩雑になるといったデメリットがあります。
- 前払い制 ⇒ 「退職金債務とは無縁になる」、「社員の多様な就業ニーズに応えることができる」等のメリットがありますが、退職金所得控除のメリットはなく所得税や社会保険料がアップしてしまうといったデメリットがあります。
いずれの制度を選択するかは退職金制度を導入する目的から判断する必要があるでしょう
退職金の支給水準を引き下げる場合の留意点
退職金の支給水準を引き下げる場合は「労働条件の不利益変更」の問題が生じる可能性があります。
賃金や退職金、その他の労働条件を労働者に不利益な内容にしようとする場合には、変更の内容、理由、必要性等につき十分に労働者に説明し、納得・同意を得た上で実施するのが原則です。
さらに、制度改定にあたって注意すべき点として、既得権の保証があげられます。既得権とは、従業員がこれまで獲得した権利であり、退職金制度でいえば「今、退職した場合の退職金額」であり、この権利については特に厳格に保護されるべきとの考え方です。
したがって、制度移行時点での退職金の額を計算し、その金額を各人の持分として約束しておくことが必要でしょう。
おわりに
多くの会社で退職金制度が導入されています。いま社員が退職したらいくら退職金が必要になるのか恐らく多くの会社では、状況が把握できていないのではないでしょうか。こうした現状から、退職金は「隠れ債務」と呼ばれています。退職金の状況を定期的に検証し、問題があれば早めに見直すことも必要です。