改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)とその対応
パワーハラスメント防止対策が事業主に義務付けられる事がきまり「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」が2020年6月1日より施行されました。
中小企業の事業主については2022年4月1日より義務付けられます。法律に違反した事による直接的な罰則は規定されませんでしたが、パワーハラスメントを防止する為の措置を企業は実施しなければなりません。
職場のパワーハラスメント状況
2020年に実施された「職場のハラスメントに関する実態調査」によると過去3年間に一度以上パワーハラスメントを受けたと回答した者は31.4%です。また「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると都道府県労働局及び労働基準監督署に設置された総合労働相談コーナーにおける「いじめ・嫌がらせ」の相談件数も平成30年度には8万件を超え、令和元年度では87,570件となりました。企業にとって貴重な人材の損失、社会的評価に悪影響を与えかねない問題となっています。
民事上の個別労働紛争|主な相談内容別の件数推移(10年間)
厚生労働省「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」より
※「職場」
労働者が業務を遂行する場所であれば、労働者が通常勤務している場所以外の場所であっても、「職場」に含まれます。たとえ「懇親の場」であっても、職務との関連性、参加者、参加や対応が強制的かなどを考慮し「職場」に該当する事もあります。
※「労働者」
正社員のみならず、パート・アルバイト、契約社員等の非正規雇用労働者を含む事業主が雇用する全ての者を言います。派遣労働者については派遣元事業主のみならず、派遣先において役務の提供をする派遣社員も労働者とされます。
「パワーハラスメント」とは
「優越的な関係を背景とした言動」、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」、「労働者の就業環境が害されるもの」これらの要素を全て満たすものを言います。「就業環境が害される」とは身体的又は精神的に苦痛を与えられたことにより労働者の能力発揮に重大な影響が生じる事を指します。
厚生労働省はパワーハラスメントについて代表的な言動の種類として6つの類型を示しています
- 身体的な攻撃 ⇒暴行・障害
- 精神的な攻撃 ⇒脅迫・名誉棄損・侮辱・酷い暴言
- 人間関係からの切り離し ⇒隔離・仲間外し・無視
- 過大な要求 ⇒業務上明らかに不要な事や追行不可能な事の強制・仕事の妨害
- 過小な要求 ⇒業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる事や仕事を与えない事
- 個の侵害 ⇒私的なことに過度に立ち入る事
パワーハラスメントに該当すると考えられる例としないと考えられる例
1.身体的な攻撃
◆該当すると考えられる例
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- 殴打、足蹴りを行う
- 相手に物を投げつける
◇該当しないと考えられる例
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- 誤ってぶつかる
2.精神的な攻撃
◆該当すると考えられる例
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- 人格を否定するような言動を行う。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む。
- 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う
- 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行う
- 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信する
◇該当しないと考えられる例
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- 遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をする
- その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をする
3.人間関係からの切り離し
◆該当すると考えられる例
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- 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする
- 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させる
◇該当しないと考えられる例
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- 新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施する
- 懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせる
4.過大な要求
◆該当すると考えられる例
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- 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる
- 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する
- 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる
◇該当しないと考えられる例
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- 労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる
- 業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せる
5.過小な要求
◆該当すると考えられる例
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- 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる
- 気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない
◇該当しないと考えられる例
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- 労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減する
6.個の侵害
◆該当すると考えられる例
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- 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする
- 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する
◇該当しないと考えられる例
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- 労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行う
- 労働者の了解を得て、当該労働者の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促す
事業主に義務付けられた措置
事業主の方針の明確化及びその周知・啓発(就業規則に規定、研修等を実施)
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- パワーハラスメントの内容
- パワーハラスメントを行ってはならない旨の方針
- パワーハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容
相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
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- 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する
- 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにする。パワーハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、発生する恐れがある場合や該当するか微妙な場合であっても、広く相談に対応する。
職場におけるパワーハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
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- 事実関係を迅速かつ正確に確認する
- 事実関係が確認できた場合には、速やかに被害者に対する配慮の為の措置を適正に行う
- 事実関係が確認できた場合には、行為者に対する措置を適正に行う
- 再発防止に向けた措置を講ずる
併せて講ずべき措置
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- 相談者・行為者等のプライバシーを保護する為に必要な措置を講じ、労働者に周知する
- 事業者に相談した事、事実関係の確認に協力した事、都道府県労働局の援助制度を利用した事等を理由として、解雇その他不利益な取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する
まとめ
職場のパワーハラスメントは個人としての尊厳や人格を不当に傷つける等の人権に関わる許されない行為であり、職場秩序の乱れや業務への支障を生じさせます。
事業主は個別の事案についてパワーハラスメントにあたるのかどうか判断する際、その言動が行われた経緯や状況等、様々な要素を総合的に考慮して判断する事が必要になります。
就業規則などでパワーハラスメントの内容や行ってはならない旨を規定し、労働者に周知・啓発を行った上で厳正に対応してください。働きやすい職場環境を整え労働者が活き活きと働ける職場にする事で生産性の高い企業になるものと思います。
参考資料
「職場のハラスメントに関する実態調査」の報告書を公表します (mhlw.go.jp)
【最終版原稿】リーフレット「2020年(令和2年)6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!」 (mhlw.go.jp)