高年齢者雇用安定法改正70歳までの雇用確保措置への対応
高年齢者雇用安定法改正の背景について、少子高齢化が進行し高齢者の割合は1985年バブル期当時9.7人に1人であったものが2020年には3.4人に1人と急速に増えています。その中で高年齢者雇用安定法は、経済社会の活力を維持するため働く意欲がある高年齢者が活躍できる環境を整備するため改正が行われました。
年齢3区分別人口及び高齢化率の推移令和2年度版厚生労働白書より
改正内容
これまでの高年齢者雇用安定法では65歳までの雇用を確保する必要がありました。今回の改正では70歳までの就業機会の確保が努力義務として課せられています。
改正前(義務)以下のいずれかの措置を講ずる必要あり
- 60歳未満の定年を禁止
- 65歳までの雇用確保措置として
1、65歳までの定年引き上げ
2、定年制の廃止
3、65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)の導入
改正後(努力義務)改正前の義務に加え以下のいずれかの措置を講ずる努力義務を新設
- 70歳までの就業機会の確保措置として
1、70歳までの定年引き上げ
2、定年制の廃止
3、70 歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
4、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
5、70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a事業主が自ら実施する社会貢献事業
b事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
1~3についてはこれまでの65歳から年齢を引き上げたものですが4、5については雇用によらないあらたな措置(創業支援等措置)として注目されます。
創業支援等措置について
業務委託契約や事業主が関与する社会貢献事業等の制度をを導入することで創業支援等措置を実施する場合、計画を作成し過半数労働組合または労働者の過半数を代表する者(以下、過半数代表者)の同意が必要になります。創業支援措置の実施に必要な手続きの流れは以下のとおりです。
実務上のポイント
1,対象者を限定することができる
高年齢就業確保措置は努力義務ですので基準を設けて対象者を限定することができます。事業主が恣意的に高齢者を排除するなど法の趣旨や労働関係法令・公序良俗に反するものは認められません。人事評価や健康診断の結果等、公正な基準で対象者を選定することが必要です。
2,労使で協議を行う
就業機会の確保措置のいずれか又は複数の措置を組み合わせて措置を講ずるかについては労使で協議し決定することが望ましいとされています。また創業支援等措置のみを講ずる場合はその計画について過半数代表者の同意を得る必要があります。
3,その他実務上留意すべきこととして
- 定年前とは異なる業務に就く場合には安全または衛生のための教育の実施すること
- 職場環境の改善や健康や体力の状況把握とそれに応じた対応を行い災害防止対策を行うこと
- 次の場合は就業規則や創業支援等措置の計画に記載することで契約を継続しないことができる
1、心身の故障のため業務に耐えられないとみとめられること
2、勤務状況が著しく不良で従業員として職責を果たしえないこと - シルバー人材センターへの登録や、再就職・ボランティアのマッチングを行う機関への登録は就業確保措置を講じたことにはならないこと
- 賃金について就業の実態、生活の安定等を考慮し適切なものにすること
70歳までの雇用を確保することを義務付けているものではありません。「努力義務」とされていますので、措置を講じないことで法違反を問われるものではありませんが高齢化が進む中、積極的に高齢者を活用する環境を整えることは企業にとって人手不足の解消に資するものと思います。
おわりに
令和3年4月1日施行されました改正高年齢者雇用安定法は70歳までの就業機会を企業の努力義務になっています。しかし、労働力人口の減少は明らかであり労働力の不足を補うため企業として高齢者活用の体制づくりをしていく必要に迫られていくと思われます。
高齢者も社会の中心的存在として社会に貢献するようなあり方を見つける必要があるでしょう。今回の改正を機に組織の中でどのように高齢者を活用すればよいか検討されることをお勧めします。