長時間労働による労働者の健康被害を防止するために
はじめに
長時間労働による過重な労働は、疲労の蓄積をもたらす大きな要因となっています。
脳・心臓疾患の発症との関連性が強いという医学的知見も得られています。脳・心臓疾患に係る労災請求件数の推移みると業務における過重な負荷により脳血管疾患又は虚血性心疾患等(以下「脳・心臓疾患」という。)を発症したとする労災請求件数は、平成 14(2002)年度に 800 件を超えて以降、700 件台から 900 件台前半と高い水準で推移しています。
令和2年版過労死等防止対策白書(厚生労働省)より
労働者1人あたりの労働時間についてみると勤務形態別に年間総労働時間数では、一般労働者は平成5年が年間2045時間に対して、令和元年は年間1978時間へと減少し平成 21年以来、10年ぶりに 2000 時間を下回りました。
パートタイム労働者についても総実労働時間は 997 時間と、1000時間を下回りました。近年の労働者1人当たりの年間総実労働時間は減少していますが、労働者の負荷は相変わらず高いものと考えられます。
令和2年版過労死等防止対策白書(厚生労働省)より
過重労働による健康障害を防ぐためには、時間外・休日労働時間の削減、年次有給休暇の取得促進等のほか、事業場における健康管理体制の整備、健康診断の実施等の労働者の健康管理に係る措置の徹底が重要です。
時間外・休日労働時間の削減
時間外労働は本来臨時的な場合に行われるものであり、恒常的に長時間労働が発生している事業場については改善が必要です。その上医学的知見によると時間外・休日労働時間が45時間を超えて長くなる程、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強まるとされています。
事業者は、45時間を超えて時間外労働をさせる事が可能な場合でも健康障害防止の観点から、時間外労働は月45時間以下に抑えるよう努め、休日労働についても削減する努力をする必要があります。
年次有給休暇の取得促進
労働基準法が改正され、年5日の年次有給休暇を取得させなければなりません。事業者は、年次有給休暇を取得しやすい職場環境を作り、計画的付与等の活用により年次有給休暇を確実に取得できるようにする必要があります。
健康管理体制の整備
常時50人以上の労働者を使用する事業場については、衛生に係る事項を調査審議する衛生委員会等の設置が必要であり、産業医、衛生管理者等の選任し健康管理に関する職務を適切におこなわせなければなりません。
常時50人未満の労働者を使用する事業場については衛生委員会等の設置については適用されませんが、「関係労働者の意見を聴くための機会を設けるようにしなければならない」とされています。
健康診断の実施等の労働者の健康管理に係る措置
事業者は、労働安全衛生法に基づき1年以内ごとに1回健康診断を実施し健康診断結果、異常の所見があると診断された労働者については医師からの意見聴取し、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数減少等の措置、保険指導等を確実に実施しなければなりません。
とくに、深夜を含む業務に常時従事する労働者については6月以内ごとに1回健康診断を実施する必要があれます。
おわりに
働き方の多様化が進む中で、長時間労働に伴う健康障害の増加など労働者の生命や生活にかかわる問題が深刻化しています。働くことによって健康を損なうようなことがあってはならないものです。
労働者が疲労回復をする事ができないような長時間にわたる過重労働を排除し、労働者に疲労の蓄積を生じさせないようにする為にも健康管理について事業者は適切に実施するようにしなければなりません。