最低値賃金の引き上げに対応、助成金の活用!
前回、業務改善助成金をご紹介しましたが、助成金を申請するには賃金UPの他に設備投資と就業規則へ引き上げ後の事業場内最低賃金を規定する必要がありました。設備投資の予定がない企業には使い辛い助成金だったかもしれません。今回ご紹介するキャリアアップ助成金(賃金規定改定コース)は賃金規定の改定と改定後の規定通りに賃金をUPすることで助成金が支給されますので業務改善助成金よりも活用しやすいでしょう。
また地域別最低賃金は毎年引き上げられており、最低賃金引上げに対応するための負担軽減策としても検討をされてはいかがでしょうか?
地域別最低賃金は令和2年度を除く近年では毎年3%程度の引き上げが行われています。令和5年度も同様の引き上げられることが考えられ、助成金を活用することで企業の負担を少しでも減らすことが可能です。
京都府最低賃金推移(京都労働局労働基準部賃金室 令和5年9月6日作成)
キャリアアップ助成金(賃金規定改定コース)とは
有期雇用労働者等(短時間労働者、派遣労働者、無期雇用労働者を含む)の基本給に関する賃金規定等を3%以上増額改定し、昇給させた事業主に助成するものです。
支給申請を行うには増額改定前の賃金規定(旧規定)を定めてから3か月以上経過しており、かつ増額改定後の新しい賃金規定を6か月以上運用することが必要です。また旧規定より定額で支給されていた諸手当を減額すると支給されませんので注意が必要です。
助成金は賃金規定を改定した(賃金規定等の増額を適用した)後6か月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2か月以内に申請することにより支給されます。
キャリアアップ助成金の概要
キャリアアップ助成金は、非正規労働者の正規雇用労働者等への転換、人材育成、処遇改善等、企業内でのキャリアアップを促進する目的で平成 25 年度に創設されました。
キャリアアップ助成金には以下のコースがあります。
1,正社員化支援
- 正社員化コース
- 障害者正社員化コース
2,処遇改善支援
- 賃金規定等改定コース
- 賃金規定等共通化コース
- 賞与・退職金制度導入コース
- 短時間労働者労働時間延長コース
現在、非正規雇用労働者は、雇用者の約4割を占める状況にありますが、正規雇用を希望しながらそれがかなわず非正規雇用で働く方や「自分の都合のよい時間に働きたいから」等の理由により自ら非正規雇用を選ぶ方もおられます。
政府は正社員と非正規社員との処遇格差を是正し、どのような雇用形態を選択しても納得が得られるよう正社員への転換や処遇の改善が必要であり非正規雇用労働者の正社員化、賃金引上げ、待遇制度の正規・非正規共通化等に取り組む企業への支援について待遇改善のインセンティブ付与として、キャリアアップ助成金を支給しています。
賃金規定改定コース支給申請の流れ
1,キャリアアップ管理者の選任
事業所ごとに、有期雇用労働者等のキャリアアップに取り組む者として、必要な知識及び経験を有していると認められる者を「キャリアアップ管理者」といいます。キャリアアップ計画書の提出以前に選任する必要があります。
2,キャリアアップ計画の作成・提出
賃金アップを行う労働者を選定し、〇%賃金を上げる等の目標を設定します。さらに目標を達成するための措置について検討し、どのような流れ(手続き等)で賃金をアップするのか計画を作成し管轄の労働局へ提出します。
※実施日の前日までに管轄労働局長に提出
3,賃金規定等の改定(取り組みの実施)
就業規則、賃金規定、賃金一覧表等を3%以上増額改定させます。
一部の労働者のみを増額改定の対象にすることは可能ですが、対象となる労働者の区分をどのように分けるか注意が必要です。賃金規定等で対象となる労働者の区分が明確になっていることが必要です。
4,改定後6か月分の賃金の支払い
改定された賃金規定等に基づき6か月間賃金を対象労働者に支払います。対象労働者が休職している場合については勤務した日数が11日以上ある月が6か月分なければ助成金の支給対象労働者数から除外されますので支給申請時には注意してください。
5,支給申請
対象労働者の賃金規定等を改定した後6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内に申請書類を作成し管轄の労働局またはハローワークへ提出してください。申請に必要な書類は次の通りです。
①申請書類
- キャリアアップ助成金支給申請書(様式第3号)
- 賃金規定等改定コース内訳(様式第3号・別添様式3)
- 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
- 支払方法・受取人住所届
②支給申請に必要な添付書類
- 管轄労働局長の認定を受けたキャリアアップ計画書(写)
- 改定前後の就業規則または労働協約等(写)
- 対象労働者の改定前後の雇用契約書または労働条件通知書等(写)
- 対象労働者の改定前後の賃金台帳等(写)
- 対象労働者の改定前後の出勤簿またはタイムカード等(写)
まとめ
パートタイマーやアルバイト等の非正規労働者の賃金も年々高くなってきており企業の負担は大きいものと思います。最後にイメージしやすいように参考例をあげたいと思います。
- 参考例
パートタイマー3人 時給:1,000円 月の勤務時間:100時間
賃金の増額改定(3%up):時給を30円upした場合
- 月の支払い額
現 行 :1,000円 × 100時間 × 3人 =300,000円/月
引上げ後:1,030円 × 100時間 × 3人 =309,000円/月
企業の負担増:9,000円/月
- 助成金の額
中小企業の場合3%以上5%未満の増額改定の場合、1人あたり50,000円が支給されます。
50,000円 × 3人 =150,000円支給
150,000円/月 ÷ 9,000円/月(負担増分) =16,66・・・か月
賃金引き上げ分の16か月分を助成金で賄えることになります。
※所得税、雇用保険料その他の増額分は考慮していません
いかがでしょうか?1年以上の期間、負担が増えた賃金分を補うことができますので助成金の活用を是非ご検討ください。
職務評価を活用して増額改定する場合に加算があります。中小企業の場合1事業所当たり20万円の加算になります。詳細は厚生労働省のHPをご確認ください。
キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)の活用を検討される場合は、事前に管轄の労働局またはハローワークへご相談ください。