労働力人口減少と多様な正社員の活用するときのポイント
労働力人口の減少が進み働き手が不足する中で、従業員の確保は大変難しくなってきています。
企業にとっては、これまで一般的とされた働き方ができる労働者だけでは労働力の確保が難しく、様々な事情を持った人々にも働いてもらうことが必要になってきました。そのため、仕事と育児・介護・障害・疾病など様々なライフステージの中、希望する働き方に 時間や地域的制約を伴うことの多い人々が、 キャリアを継続し、能力 を発揮できるような環境整備が必要になります。
労働者のワーク・ライフ・バランスと、企業による優秀な人材の確保や定着を同時に可能とするような、労使双方にとって望ましい働き方が求められています。そんな中、「多様な正社員」がクローズアップされています。
多様な正社員とは
正社員とは、「労働契約の期間の定めがない」、「所定労働時間がフルタイムである」、「直接雇用である」者をいいます。反対に多様な正社員とは、配置転換や転勤、仕事内容や勤務時間などの範囲が限定されている正社員のことを指し以下のように定義されています。
- 勤務地限定正社員:転勤するエリアが限定されていたり、転勤が一切ない正社員
- 職務限定正社員 :担当する職務内容や仕事の範囲が限定されている正社員
- 勤務時間限定正社員:所定労働時間がフルタイムではない、若しくは残業が免除されている正社員
多様な正社員の活用するために留意すべきこと
多様な正社員に活躍してもらうために、企業と労働者双方にとってメリットのある制度とする必要があります。雇用管理上留意すべきポイントです。
- 労働者に対する限定内容の明示
転勤、配置転換などに関する紛争を未然に防止する為、労働者に対し限定の内容を明示することが大切です。明示するポイントとしては、「書面で明示する」「限定の内容が当面のものか、将来にわたるものかについて明示する」等が挙げられます。
- 多様な正社員への転換制度
非正規雇用の労働者⇒多様な正社員、正社員⇔多様な正社員への転換制度を設けること
①非正規雇用の労働者から多様な正社員への転換制度について
転換制度の応募資格、転換要件、実施時期等について制度化する。転換を社内制度として就業規則等で明確にした上で労働者に周知する。
②正社員と多様な正社員間の転換制度について
転換要件、実施時期、回数制限等について制度化する。転換を社内制度として就業規則等で明確にした上で労働者に周知する。必ず本人の同意を得る。キャリア形成への影響やモチベーション維持のため、多様な正社員から正社員へ再転換できる制度にすることが必要です。
- 正社員と多様な正社員間の均衡処遇(賃金、昇進・昇格)
多様な正社員と正社員双方に不公平感を与えず、モチベーションを維持するために正社員と多様な正社員間の処遇について均衡を図ること
①賃金について
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- 勤務地限定正社員の場合は正社員と職務内容が変わらず、正社員の中に転勤しない者がいる場合には、正社員と多様な正社員間の賃金水準の差は小さくする
- 職務限定正社員の場合、職務給または職務給の要素が強い賃金体系とし、正社員、多様な正社員の別を問わず職務の難易度に応じた水準とするよう検討する
- 勤務時間限定正社員の場合、正社員と職務内容が同一で勤務時間もフルタイム勤務に近いものの、所定外労働が免除される場合には、正社員と同一の賃金テーブルを適用し、同種の職務を行う正社員の時間当たり賃金水準に比例した水準とすること
②昇進・昇格について
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- 勤務地限定や勤務時間限定であっても、経験することができる職務や能力に影響が少ない場合には、昇進のスピードや上限は正社員との差をできるだけ小さくすること
- 一時的に多様な正社員に転換した者を正社員に再転換する際、正社員であった者と同格のポストに配置することが難しい場合には、多様な正社員としての勤務実績や経験を適正に評価し、それにふさわしいポストに配置することが望ましい。
- 正社員の働き方の見直し
多様な正社員を活用しやすくするために、まずは正社員の働き方の見直しを行い多様な正社員に担当させる業務の切り出しができるように見直すことが必要です。転勤や配置転換の必要性や所定労働時間を超える時間外労働を前提とした働き方などについて検討してもよいでしょう
- 人材育成・キャリア形成
人材育成・キャリア形成の為、職業能力を計画的に習得できるよう職業訓練の機会を与えること、自社の人材育成・職業能力評価について点検し、それぞれの事情に合ったキャリア形成に資する職業能力開発の支援を行う
- 制度の設計・導入・運用に当たっての労使コミュニケーション
多様な正社員の制度は労働者の納得を得られて初めて円滑な導入・運用が実現します。制度の設計・導入・運用に当たっての労働者に対する十分な情報提供と労働者との十分なコミュニケーションを行うことが大切です。
- 事業所閉鎖や職務の廃止などへの対応
たとえ、勤務地や職務が限定された多様な正社員が勤務する事業所を閉鎖したり、多様な正社員が担当する職務を廃止したりした場合でも、直ちに解雇が有効となるわけではなく、事業所閉鎖や職務の廃止などに直面した場合、解雇回避のための措置として配置転換などを行うこと必要です。
おわりに
高度経済成長期以後 、大企業を中心に、正社員の長期雇用慣行を基軸として、経営環境の変化に対応した労働力や人件費の調整のために非正規雇用の労働者を配置することで、生産性の向上と柔軟性の確保を図る人事労務管理が定着してきましが、今後、労働力人口 が一層減少していく中で、女性や高齢者など育児や介護等のために希望する働き方に時間や地域的制約を伴う労働者においても、その職業能力を発揮できるようにすることが求められます。
このような状況の中 で 、労働者一人ひとりのワーク・ライフ・バランスと、企業による優秀な人材の確保や定着を同時に可能 とするような、労使双方 にとって望ましい 多元的な働き方の実現が求められます。そして、そうした働き方や雇用の在り方の一つ として、職務、勤務地、労働時間を限定した「多様な正社員」の普及を 図る ことが重要です。