副業・兼業について認めた場合の企業のリスク

従業員から、勤務時間外にアルバイトをしたいと言ってきたらどのように対応すべきでしょうか?
そもそも副業・兼業を認めるのかが、問題になります。副業・兼業を認める場合、企業として何をしなければならないか考えたいと思います。

 

副業・兼業を企業として認めるべきか

企業として副業・兼業を認めるのか判断する上でどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
考えられるものとしては

1,メリット

  • 他企業で得た知識や経験から従業員のスキルアップになる。
  • 自己成長欲求が大きい優秀な人材を繋ぎとめる事ができる。
  • 新たな知識・情報や人脈を利用して事業拡大につなげられる。

 

2,デメリット

  • 本業に支障をきたす可能性がある。
  • 情報漏洩のリスクがある。
  • イレギュラーな労務管理をしなければならず、労務管理が煩雑になる。

これらのメリット・デメリットを考慮の上、労使で話し合いを行い副業・兼業のルールを決める必要があります。ルールを守れないのであれば、副業・兼業を認める事は難しいでしょう。

 

副業・兼業の現状

多くの企業では、「自社での業務がおろそかになる」、「情報漏洩のリスクがある」、「競業・利益相反になる」等として副業・兼業を認めていないのが現状だと思います。「労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由である」とされており、残業時間の減少による収入減の補填やスキルアップ等を理由に副業・兼業を希望する者は、年々増加傾向にあります。

 

副業・兼業を認める場合の企業の対応

副業・兼業を行う場合は複数の事業所で労働することになります。特に労働時間の管理、労働保険・社会保険の適用が難しくなります。

労働時間管理は自社の労働時間と副業・兼業先での労働時間を通算する必要があります。通算した結果、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて労働させた場合は割り増し賃金の支払いが発生します。

では、この割り増し賃金はどちら企業で支払いが必要になるのでしょうか?

結論を言いますと後から契約した副業・兼業先で割り増し賃金の支払いが発生します。仮に1日において副業・兼業先で先に就労した後、本業で就業した場合でも後から契約した副業・兼業先で割り増し賃金の支払いが発生します。副業・兼業先での労働時間は従業員から報告してもらいます。

(例1)企業A(本業)⇒企業B(副業・兼業先)の順に就労した場合のイメージ
(例2)企業B(副業・兼業先)⇒企業A(本業)の順に就労した場合のイメージ

 

副業・兼業労働時間

厚生労働省HPより

 

労災保険・雇用保険・健康保険・厚生年金保険などの労働保険・社会保険の適用についてはどうなるのでしょうか?

  • 労災保険  本業と副業・兼業先の会社の両方で加入することになります。
  • 雇用保険  通常は本業である会社で加入することになります。(週の労働時間が20時間以上かで適用の判断を行います。生計を維持する主たる賃金を受ける方で加入することになります。)
  • 健康保険  年齢・労働時間等諸条件があり一概には言えませんが、本業、副業・兼業先の会社の両方で適用があれば、両方で加入し、保険料は合算した上按分処理を行い自社の分だけ保険料を支払います。
  • 厚生年金  健康保険と基本的に同じです。

詳細は厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」をご確認ください。

 

就業規則の整備

政府や厚生労働省は、副業・兼業を推奨している感がありますが、副業・兼業をなんでも許可しなければならないという事ではありません。企業が副業・兼業を制限できる場合として厚生労働省 モデル就業規則には次の4つ挙げています。

  1.  労務提供上の支障がある場合
  2.  企業秘密が漏洩する場合
  3.  会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
  4.  競業により、企業の利益を害する場合

 

厚生労働省 モデル就業規則(令和5年7月)

 

モデル就業規則では会社への届け出により副業・兼業を認める内容となっており、上記①~④の場合に制限できるとしています。

法律では公務員と違い一般的には副業・兼業は禁止されていない為、就業規則で制限禁止事項を具体的に定めることになりますが労働者が勤務時間外の自由な時間を疲労回復のために適度な休養をとる事は次の労働日における誠実な労務提供のために必要なものと思われます。

就業規則の内容は自社の実情に合ったものにする必要がありますので、業務内容を考慮しつつ、副業兼業を導入する際には、労使で十分検討するようにしましょう。